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スキの情熱で世界を変える!――高野麻衣 公式ホームページ

スキの情熱で世界を変える! —— 高野麻衣オフィシャルサイト

乙女のハチクロ講座

乙女の日、である。
オトクラだけにネタはあまたあるのだが、折からの次郎ブームが役者つながりで「ハチクロ」に飛び火中のわたし。夏に引き続き、映画みてアニメみて原作読み返し、の罠にハマッている。
ということで、今回は映画『ハチミツとクローバー』と森田忍のお話。

映画版の脚本・監督は、CMディレクターとして活躍する高田雅博。主人公=語り手・竹本に『木更津キャッツアイ』の櫻井翔。ヒロイン・はぐみは蒼井優。そして彼らの先輩にして天才アーティスト森田役を『白洲次郎』伊勢谷友介が演じている。
作品については、もちろんメディア化の常で賛否両論なわけだが、わたしは肯定派。
奇跡的なキャスティングはもとより、一個の映画作品としての完成度――原作とまったく同じになるわけがない2時間の枠のなかで、どれだけエッセンスを取り出し、破綻のない、観ていて気持ちいい画面にするかということに成功している。こういうものは、あくまで“別物”として楽しめばよい。よいのだが、おもしろいものでそうなると

「映画版では迷うことなく森田派です」

という自分がいる。
原作やアニメ作品の森田はよりエキセントリックで浮世離れしており、掴み所がない。まさに奇人と紙一重の天才。ふわふわして、ちょっと中性的ですらある。
そういう原作主義のファンには、伊勢谷友介は「強すぎた」かもしれない。あきらかに肉食系――原作者いわく“ライオンのようにしなやか”で、弱みを見せない。才能、男気、フェロモンたっぷりのある意味“大人の男”なので、はぐみがあたりまえのように彼に惹かれ、竹本君が「男としてかなわない」とヘコむときのリアリティが段違いだ。
衝動的に共同作品を描いたときの「おいっ」という声、個展でのやさぐれた態度、海での会話がすき。最後の「この国を出るよ」「そういうと思ってた」は、もっとすき。
たとえば原作を忠実になぞったとき、森田のダークサイドからどのような深みが生まれるのかとか、見てみたい。スピンオフで森田兄弟の物語希望。(兄は佐藤浩市?)

不満があるとすれば、真山があまりにもヘタレすぎる点。
加瀬亮はたぶん悪くない。絵になるし、雰囲気はそのもの。だが、脚色があまりにも若気の至り的ストーカー行動に焦点を当てすぎでモラトリアムで、なんで山田(関めぐみ)はこんな男が好きなの!?と納得がいかない。
真山は5人の学生のなかで精神的に一番大人で、年上の、過去の傷を背負った女と同じ視点で世界を見ようと背伸びして、一生懸命前進している男だ。竹本くんのよき先輩でもある。未完成ながらも「自分」を確立しているからこそ、森田に対してだって物怖じせずにビシッと言える。
……真山、キモイけど好きなんだ。誤解されやすいけど断じて草食系ではないんだ。少なくとも山田の失恋シーンで、観ている人間に「はあ!?」って思わせない説得力のあるやつなんだ!!
 
原作の話になるが、はぐみと森田の結末というのは物語上これ以外ないというもので、わたしが「ハチクロ」をすきなのは、はぐみがああいう選択をする物語だからである。
森田はたしかに王子様である。しかし二人はそれ以前に、アーティストである。

最近の少女マンガというものが「結局そこにおちつくんでしょ」という恋愛不文律から逃れられない、ある意味商業主義的閉塞感あふれるエンタメでしかないとしたら、「ハチクロ」はあきらかに少女マンガではない。*3
素朴で愛らしい少女の形をしながら、登場人物の誰よりも強く男前だったはぐみと同様、「ハチクロ」は、“パステル青春群像劇”のパッケージをした、芸術家と人生のおはなしだ。

「恋愛が主軸になってたり…しないのは、私はやっぱり少年まんがが好きだったので。少年まんがってこう主軸があって恋愛はその日常の中にある。そういうのがやっぱりどうしても描きたくて。私は男まんがも女まんがも読むし、オタクだけどオタクじゃないのも好きだし。私が中途半端なところにいるのを、逆手に取れないかと思いました」*4

わかる!わかる!
だからこそ、カワイイ絵柄にだまされて読んでいない人がいるなら、ちょっともったいない。
花本はぐみとディキンソン、とか、重い題材だけれどそのうちまた書いてみたいかも。 

 

*1 『雪に願うこと』(2006)で兄弟役。原作イメージではないけれど、別物ということで。浩市の屈折演技も見てみたい。

*2 以前書いたように、少女マンガのなかの「お茶をいれるということ」についても考えてみたい。

*3 だから優秀な少女マンガ作家は、総じて青年誌へ移っていくのかも。

*4 「対談 羽海野チカ」、福田里香『まんがキッチン』アスペクト所収、2007年。
 
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