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スキの情熱で世界を変える!――高野麻衣 公式ホームページ

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ラクリモサ(涙の日)

ゆく川の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず、とはよく言ったもので、名作名曲の例を引くまでもなく、川は人生とその無常観の象徴である。
その川を船でゆく主従。
後半のほとんどを、原作で語られない主人公の暗い過去との対峙に費やしたアニメ『黒執事』にとって、当然の終わり方、といえば終わり方だったのかもしれない。

最終回「その執事、滔滔」。
ラストの暗転は、シエルの死=意識の消滅の暗示である。
奇をてらったようにみえて、この表現は映画などでもよく見る常套手段だ。
マンガや、おそらくアニメでも多いのだろう。たとえば最近ならば、大ヒット作『デスノート』(大場つぐみ小畑健集英社)の主人公の最期が、同じように暗転で示されていたはず。
死神に魅入られたアンチヒーローの最期は壮絶なものだったが、シエルのそれは、悪魔(セバスチャン)に魂を捧げながらも穏やかなものだった。
穏やかすぎるくらいだ。
ゆだねきった表情や滑り落ちる眼帯には妖しさまで感じられ、スタッフの思い入れの強さを物語る。
目を閉じたシエルに、手を差し伸べるセバスチャン。
主従が使命を語るたびに流れてきた、悲しげなアリアの冒頭が響く。
セバスチャンの顔が間近に大きく映し出され――
ふいに音が消え、暗転。
続いて流れてきたエンディングテーマ。映画風のテロップ。
ここまではいい。曲のあとになにかフォローがあるのだろうと、多くのひとが考えたはずだ。
ふたりの姿が消えた廃墟に朝日が差し鳥の声だけが聞こえるとか、黒地にいつものゴシック・ロゴで「黒執事 完」とか、それだけでもよかった。
果たして――
にぎにぎしく流れゆく新番組予告。
余韻もなにも、あったものではない。
わたしは、夜中の2時半に叫んだ。
「『鋼の錬金術師』なんて、ぜったい見てやるもんか!!」

このラストは、だれに向けたものだったのだろう。
監督や脚本家が作りたかったものが映画館で観るような「ゴシック・ホラー」だったのなら、わからなくはない。百歩譲って。
“ヴィクトリアン萌え”のゴス・テイストやオリジナルのテーマ性(いきすぎた正義が悪に転じた天使と、それを消すことを目的とした“悪の貴族”)――しかしそのようなテイストを求める視聴者が万が一いたとしても、“サービス”が鼻につきリタイヤしたのではないだろうか。
逆に”サービス”の対象と思われる「乙女」に迎合するのなら、このラストはない。
スタッフには「乙女」へのマーケティング的知識や理解はあっても、共感=乙女回路がなかったに違いない。
シリーズ構成の岡田麿里がくりかえし主張する主従の“決して変わらない関係性”を描くのならば、シエルの死は(暗示でも)タブーではないだろうか。
そのような最期がいつか訪れることを大前提として、
「ゆくぞ、セバスチャン」
「イエス、マイロード。
どこまでも坊ちゃんのお傍におります。最期まで――」
という、ある意味で彼らの「日常」に戻らなければならない。
ロンドンが炎上しようが仲間がバタバタ死のうが、彼らの関係性はそこに舞い戻るからこそ「不変」なのである。
つかず、はなれず。
最後まで答えが出ないことが、答え。
そこに、やおいという“オチのない文学”のレゾンデートルがある。

おのおのの表現者が異なるアプローチをすることがメディアミックスの意義であるし、何度も書いたように、『黒執事』の序盤において、それはうまく作用していたとわたしは思う。

ただ、「触れてはいけない」「動かしてはだめ」というタブーはある。
後半の完全オリジナルになってからのオカルト攻めや、ヴィクトリア女王という歴史上の人物の介入、果てにロンドンを燃やしてしまうという“やっちゃった”展開には、まるでついていけなかった。
特にロンドン炎上。
実はこの情景、放映されたばかりのアニメ『銀魂』ニセ最終回(もちろんギャグパート)とあまりにも似通っていて、シリアスパートにもかかわらず爆笑してしまった。
銀さんは言う。
「原作はまだ続いてんだから、
アニメで“そのへん”捏造しちゃったりしたらマズイだろ。
大人の事情だよ、大人の事情」
銀さんの“愚痴”を聞いたとき、どんなにかほっとしたか!

魂がブレないこと、それが銀魂の美学。
銀魂のスタッフが真摯に笑いを追い求める、カッコワルくてカッコイイ大人たちでよかった。
いいえ、『黒執事』もまた、気に入っていたからこそ口惜しいの。
願わくば原作が息長く、“変わらない関係性”を描いてくれますように。
ヴィクトリアンに興味を持った少女たちが、史実をきちんと学んでくれますように。 

 

 TVアニメーション黒執事
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