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月刊ルネ・マルタン

ルネ・マルタン
――クラシック・ファンのためのラ・フォル・ジュルネ



コンサート会場で姿を見かけたことはないだろか。
陽気で小柄、フットワークも軽やかなこの人物こそ、各国ですばらしい音楽祭を取り仕切る敏腕プロデューサー、ルネ・マルタン
もはや説明不要の一大イベントとなったラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン熱狂の日」音楽祭(LFJ)*1 の生みの親だ。

「僕自身、クラシック音楽マニアだけど、それにもまして“シェアする”という考え方がとても好きでね。
すべての人と音楽を分かち合いたい。
毎回、音楽祭のテーマを決めるわけだけど、初心者もファンも、もちろんアーティストも巻き込めるように多くの方向性を引き出すよう心がけているんだ。
『もし参加してくれるなら、僕にまかせてください。僕から感染したウィルスがあなたをクラシック好きにします!』というかんじかな」

音楽に魂を売った日から、いつも口にしている言葉がある。
「アーティストとの協定」と「シェア」。だから将来有望な若手はもちろん、スヴャトスラフ・リヒテルら偉大な演奏家たちが絶大なる信頼を寄せてきた。
そして観客はみな、彼の“ウィルス”にたちまち感染する。

LFJの会場で目立つのは、いわゆるクラシックばなれの若者や、就学前の子どもたち、その家族などだ。特に近年、後者に向けた取り組みが盛り上がっている。*2

「生まれたての赤ちゃんにも、聴覚の喜びがある。
そして幼ければ幼いほど、情報を吸収する能力があるのに、多くは与えられていない。
彼らがまったく体験したことのないダイナミズム――大音量と静寂を知ることは、“他者を聴く”すばらしい教室になるはずだ」


“他者を聴く”という言葉は、ポップスで耳を磨き、ドラムでリズム感を養ったルネ・マルタンを象徴的に表している。
16歳のとき、故郷ナント近郊の野外パーティーで、ジャズありロックありのダンス音楽を任されたのが今の原点。
17歳のときにはチャーリー・ミンガスに夢中になり、このジャズマンが最期に聴いた、バルトーク弦楽四重奏曲のレコードを買った。衝撃を受けた。

「まるでジョン・コルトレーンやフリージャズのようで、不協和音にはまったく違和感がなかった。
バルトークに内在する民謡の旋律が、体にズシンときたんだ――」

即刻ナントのコンセルヴァトワールに入学、クラシック音楽を生業にしてきたが、現在も、いいと思う音楽ならジャンルを問わず愛している。
LFJはロック・フェスのように気軽だが、あくまでもクラシックのルールは崩さない。

「なにかを成功させるときは、互いを認め合わなければならない。
どんな専門家だって、世界のすべてを知っているわけじゃないからね。
ルネサンス音楽の専門家を自宅に招いたとき、ワインを開け、ルネサンス以外すべての音楽をかけたんだ。すると、彼は『書くものがあるかな』と言う。いい曲だからメモしたいと。嬉しいね。
音楽が本当に好きな人は、ジャンルが違っても一流のものをわかってくれる。
だからこそ僕は“シェア”するんだ」

(「ぶらあぼ」2007年1月号掲載のインタビューを加筆修正)

 

マルタンについて書くなら、まずこのインタビューを冒頭に、と決めていた。
このあとマルタンは、「音楽を愛し、『ぶらあぼ』のコンサートカレンダーを丁寧にご覧になっている方へ」として、この年のLFJの聴きどころを紹介している。
初心者向けの文脈で語られがちのLFJが、熱心なクラシック・ファンを排除したものではないということ――むしろそういたカテゴライズを超えたありかたがLFJであること。
認め合い、ともに楽しむこと。

わたしがLFJ、ひいてはルネ・マルタンに共感し尊敬する理由が、ここにある。

冒頭の写真は、今年1月のナントのラ・フォル・ジュルネにおける「アレンジ・ワークショップ」のひとこま。
右端、マルタンの後ろに飄々と立つのは、おなじみピアニストのジャン=フレデリック・ヌーブルジェ。
作曲も手がける彼が、ロック、メタル、ジャズ、電子音楽R&Bの若いグループに会い、J.S.バッハを紹介、アレンジ・アドバイスを行い、これら若いミュージシャンたちがLFJの舞台で演奏した。*3
前列でギターを抱えた少年や長髪のパンク君、写真中央のハンサムなど、数年前から見知った顔がちらほらあるのが嬉しい。彼らのなかにも確実に、年ごとのクラシックとの出会いが根づいているだろう。

もちろん、その逆もある。
LFJ着想のきっかけがU2のライヴであったように、クラヲタが、「多くの人びとに届くものの威力」について考えることも、とても大切なことだとおもうのだ。
大音響と熱狂の渦に流されてみる。
そうして帰宅して、シンプルなバッハの鍵盤の旋律を耳にしたとき、胸をよぎる思いを知る。
そんな経験も、時には必要なんじゃないかな、と信じている。

 

クラシックの音楽祭がなぜ100万人を集めたのか ~ラ・フォル・ジュルネの奇跡~

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