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スキの情熱で世界を変える!――高野麻衣 公式ホームページ

スキの情熱で世界を変える! —— 高野麻衣オフィシャルサイト

仕事と私どっちが大事なの

……とかいう女にはジャーマンスープレックス
関係性にちなんで、何度も書いている「ミツバ」のおはなし。

ミツバ編は、2006年に発表された銀魂の中編(第百二十九訓~第百三十二訓)。
ミツバとは、(おそらく史実沖田の身代わりとして)「肺の病」で死んでしまう沖田の姉の名である。アニメでは大ベテランの島本須美が演じた。
その声、はかなげな容姿と深い慈愛、それを裏切る強い意思――「仕事と私と」なんて死んでも言わない。でもけっきょく土方を引きずって婚期を逃したんじゃないかという人間くささ。 わたしが銀魂一すき、というかむしろ「あこがれの女性」である。*1
 
しかし、ミツバ編の真の主役は沖田であり、わたしがいちばん感情移入してしまうのもいつものことながら沖田。
なんで沖田がいつも「土方死ね」と言っているか。

副長の座を狙っているから → 姉上の幸せを奪った男だから

という過去が、この中編ではじめて明かされる。
もちろん本気で「姉上の幸せを奪った男」と思っているわけではない。 頭では分かってる。だから本気ではバズーカは打たない。本気では斬りつけない。
けれど、気にくわない。 

10年前だったら15と8。高1と小3。兄であり、弟分であったことには間違いないはずだ。 沖田は、土方が近藤の同年代として自分のわからない世界を共有していること、加えて姉の心まで奪ったことについて、

フラリと/あらわれて/俺の
俺の/大事なモン/全部/横から/かっさらって/いっちまいやがる

ともやもやを募らせるのだが、ほんとうはそんな単純なことではなく、そんな土方がすき(=真面目さにあきれつつ、どこか憧れてしまう)な自分が許せないのではないか。
わかる。近藤みたいなひとなら素直に認められるのに。土方は、カッコイイっていうのはなぜだか癪なのである。
すごくわかる。 
一方で土方も、いまは沖田のほうが剣技は上だし一人前だと思っていても、やっぱりときどき小さい頃を思い出して感慨に耽ったりするから甘いのである。
近藤の隣は絶対譲らないくせに、反対側にはお前がいろ、みたいな卑怯さもある。
 
お互いを同レベルに汚いと思えていたら、距離が近づくのも道理。
そういう節もある。*2
近藤やミツバはきれいだから、と線を引いて、その後ろの暗い部分を共有するような関係。沖田ののもやもやっていうのはそこからも派生していて、共有しているのに、なんでそんなにまっすぐで不器用なんだ、みたいな焦れが根底にある気がする。
たとえば土方が「ミツバの幸せを思って」に彼女をフったのは、当時14,5の少年(沖田)の目にもわかりすぎるほどで、卑怯だろ。かっこつけてんじゃねーよ土方。という。沖田自身、自分を顧みずに沖田を育ててくれた姉には相当な敬愛と、同時に負い目がある。
そんなもやもやが、すべて土方に転嫁される。
 
わたしは沖田と土方の、この、共犯者っぽいところがすきだ。
DVDのジャケットで、暗闇のなかで同じ方向を見据えているふたり、というのがとてもすき。 これがふたりの関係性の基礎だとおもっている。
よりかからない、でも互いを欠くことはできない。
相棒でも、男女でも、夫婦でも、わたしの関係性の基礎は、ここ。
「仕事よりお前だよ」
とかいう男にもジャーマンスープレックス

読者がミツバ編に対してもつ印象や思い入れはそれぞれだとおもうが、わたしは、武州時代もいまも近藤土方沖田と、ミツバ(の思い出)が、ずっとともにあったらいいと心からおもう。
最終話の扉絵みたいに、喧嘩しつつも温かい日差しが包み込んでるような、そういう彼らだったらいい。 
わたしは新選組も『燃えよ剣』も、函館より日野派。
やはり3人がいっしょにいることがすきなのだとおもう。

銀魂―ぎんたま― 59 (ジャンプコミックス)

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*1 史実の沖田みつは、天保4年4月8日生まれ。新選組一番隊長沖田総司の姉。

ミツバは登場シーンで近藤が「ミツバ殿は昔と何も変わらんよ/キレイで/おしとやかで/賢くて」と語るとおり、正統派ヒロイン的(=女子としては微妙)でありながら、そのはかない運命と、おそらくはどこか悟りを感じさせる大人の女性であることによって、女性読者の人気も高い。(高野調べ)
その秘密は彼女が銀さんや沖田に語る台詞にある。

「男の子って/幾つになっても/そうなのね
集まっては/つるんで悪だくみ/ばかりして
あの人達もそう・・・/男同士でいる時が/一番楽しそうで
結局女の子の/入り込む余地なんて/ないの」

「わき見もしないで/前だけ見て・・・/歩いていく
あなた達の/背中を見るのが/好きだった」

銀魂新選組、チーム男子に惹かれる女子の気持ちそのもの。
そういえば、三谷幸喜が描き沢口靖子が演じた沖田みつも、まったく正反対のキャラなのに同じことを言っていた。

空知の描く女性キャラクターには、少年漫画にありがちな「男の妄想としてのカワイイ女の子」ではなく、リアルで強い(腕っ節も)女性が多い。
ぶりっ子を見て殺したくなるとか。リアル。



*2 第十五訓より。

「幕府でも/将軍でもねェ
俺の大将は/あの頃から/近藤(こいつ)だけだよ」

「土方さん/俺もアンタと/同じでさァ
早い話/真選組(ここ)にいるのは/近藤さんが/好きだからでしてねェ
でも何分/あの人ァ人が良すぎらァ
他人のイイところ/見つけるのは得意だが/悪いところを/見ようともしねェ
俺や/土方さんみてーな/性悪がいて
それで丁度いいんですよ/真選組は」

近藤が身を挺してかばった幕府高官の侮蔑の言葉に激昂し、鞘に手をかけた沖田を土方が止めるシーン(「止めとけ/瞳孔開いてんぞ」)もすき。
 
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