読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

Salonette

スキの情熱で世界を変える!――高野麻衣 公式ホームページ

スキの情熱で世界を変える! —— 高野麻衣オフィシャルサイト

【Stage】エトワール、夢のあとさき

f:id:otome_classic:20150123183713j:plain

西の友人から、星組通信が届いた。まもなくはじまる戦いへの決意とトップ娘役への愛をこめて、コラムを再掲する。

きっかけは、「トップ娘役」の夢咲ねねだ。彼女をはじめて意識したのは2010年夏、雑誌『宝塚GRAPH』の表紙だった。金髪のウェーブヘアに、ふさふさ睫毛のドール・フェイス。ピンクのドレスに、ネイルアート。男役スターに寄り添うようすを見せながら存在感を放つ美女。「こんなにきれいで、凛々しい娘役がいるんだ!」――そんな衝撃を受けたのを憶えている。

それ以前から、OGの黒木瞳檀れい白羽ゆりらを通して男役より気になる存在だった宝塚の娘役。圧倒的な美貌とオーラを武器に、現代的な女性像を提示し支持される夢咲ねねは、そんな私の「トップ娘役」願望を決定づけた、「女としての理想」の具現化だった。

■「闘う女」のアイコンとして

「宝塚」と聞いて一般にイメージされるのは、熱狂的なファンをもつゴージャスな男役だ。女性であるタカラジェンヌが男役を演じるにはたゆまぬ努力と鍛錬が必要で、その苦労は「男役十年」と呼ばれるほど。それに比べたら、娘役は添え物と認識している人すら多い。当然のことながら、それは大間違いだ。本当は女である男役より女らしくあらねばならない彼女たちは、ソプラノの発声、たおやかな仕草、やさしげなメイクなどを学び、「女を演じる」。

また、序列がきっちりしている劇団において、娘役、とりわけトップスターとコンビを組むトップ娘役には「座長の妻」のような雰囲気がある。男役の少し後ろに控え相手を気遣うような光景は、稽古写真やインタビュー、そして舞台のフィナーレで頻繁に目にすることができる。

そんななか、私が夢咲ねねから受けた印象は、これまでの可憐で上品な娘役にプラスされた、いい意味でのアグレッシブさだった。ベタなくらいスイートな「女子」をまっとうしつつ、決して下がりすぎない存在感。王者のようなトップスター柚希礼音とともに、ステージの中央をゆく揺るぎない足取り。そういう女王の威厳、ある種の雄々しさを、この究極のプリンセスは持ち合わせている。私はこれを、「男(役)と対等にあるための手段」だと考えている。

夢咲が予科の時点で男役だったのは有名な話だ。本科で娘役に転向したが、娘役としては大きな身長や骨格に戸惑いがあったことを告白している(おそらく少し低めの地声にもではないだろうか)。しかしその杞憂も、『オーシャンズ11』のテスなど「大人の女」の当たり役を得ることで解消していったようだ。

いつだって「自分らしい娘役」を模索している夢咲の言動に、私はとてもアクチュアルな「女の闘い」を感じる。男社会のなかで認められる「トップ娘役」になるための、あの闘いである。

絶対的な男(役)上位の世界において、トップスターのそば近くに寄り添うことを許された唯一の女(役)。それが宝塚歌劇のトップ娘役だ。前号のエッセイにも書いたとおり、これは私たちの現実と一緒だ。ドレスも着たいが、仕事もしたい。男のなかの男に守られ、守ってあげたい。女のままで、闘いたい――もはや男装を必要としない「闘う女」の時代に、「トップ娘役」はもっと見直されていいアイコンだと、私は繰り返し宣言したい。

では、肝心のトップスター柚希礼音はどうだろう。

これまで書いてきたことからご推察と思うが、私にとって彼女は、認識したときから「夢咲ねねの相手役」だった。それでも、劇団随一と名高いダイナミックなダンスのすばらしさは、素人目にもすぐにわかった。夢咲ファンであり、「彼女のようになりたい」と夢みる私のヴィジョンに、いつも冷静で余裕があり、包容力に満ちた柚希が絶対のキングとして写るようになるのは、水が上から下へ流れるように自然なことだった。(けだるげな関西弁へのフェチでもあるので、素で見せる口調のはしばしにさえうっとりしてしまう!)

娘役としては大きくスレンダーな夢咲とのツーショットは、まさに「スタイリッシュ」という言葉がふさわしい。熱心なファンたちが「理想のカップル」というのが言いすぎではないくらいの、完璧なコンビネーションだ。

■補い合うもの

完璧なコンビネーションの理由がもうひとつあることを痛感したのは、すこし前に『Vogue』を読んでからだった。美しいポートレイトが話題となった、この世界最高峰のファッション誌のインタビューで柚希は、バレエダンサーになりたかった過去や伸びすぎた身長の悩み、そして宝塚入団にいたる経緯やその後の葛藤を、控えめな表現ながら、はっきりと語っている。

 

入学してからは、演技をする必要があることにもあらためて気が付いて、そうか、バレエだけじゃないんだ、と。そういうわけで、声楽も演技も、最初はなかなか自分のものにすることができませんでしたね。……私は、バレエでは女性らしさを追求してきたこともあって、最初はちょっと恥ずかしかったし、戸惑いもありました。

(「Life is Theatre 柚希礼音、トップを走る情熱。」『Vogue』2013年5月号)

 

すばらしいインタビューだった。安蘭けいの元での二番手時代に悩みぬいて挑んだショーヴラン役(『スカーレット・ピンパーネル』)、トップスターとして誰よりも大きな拍手を浴びることへの戸惑いと感動、自らを高め続けていこうとする姿勢。ほとんどアスリートのような柚希の発言は、バレエダンサーへの憧れから出発した彼女の「踊り、演じる」ことへの執念のようにも思える(実際に、アスリートと芸術家の2つの側面を、ダンサーは持っているという)。それは、彼女の不思議な包み込むような雰囲気を醸成する、大切な「危うさ」なのではないかと思える。

「危うい」男役である柚希と、「凛々しい」娘役である夢咲が「完璧なコンビネーション」だと考えるのは、だからである。

『REON!!』のMCなどを眺めるたびに、前へ前へと盛り上がって攻めていく夢咲と、それを笑って受け止めつつ余裕の王者ぶりをみせる柚希に、「なんて理想的な……!」と戦慄せざるをえなくなる。これはたぶん、ファンの贔屓目(だけ)ではないとおもう。

トップに立って早4年目を迎えたすばらしいコンビと、二番手紅ゆずるをはじめとする星組の面々が、平行してどんどんいとおしくなる日々だ。終わったばかりの台湾公演の成功をはずみに、星組(エトワール)たちの100周年がますます輝ける年になるようにと、願う。

『宝塚イズム』(2013、青弓社)初出

 

©2007-2017 Salonette All rights reserved.